尿道結石による尿閉に対する陰茎温存手術の検討

平成23年度中国地区獣医学会発表演題

 

尿道結石による尿閉に対する陰茎温存手術の検討

○嶋田浩紀、小山典子、足立 全、土江將文、岸本昌也、加藤大介

発表者所属:(有)益田大動物診療所 

1.はじめに:尿石症は肉牛において代表的な代謝性疾患の一つで、結石による尿道の閉塞に至る個体は、速やかな外科処置の対象となる。一般には会陰部を切開し、尿道を切断し、皮下に尿道を縫い付け、新たな尿の排出口となる尿道瘻を形成させる尿道バイパス手術が行われている。しかしながら、出荷までの飼養期間の長い育成牛や肥育前中期の牛に対しては、その後の術後管理が重要となる。即ち、尿道瘻の開口部が会陰部の肛門直下にあるため、絶えず糞による汚染が懸念される。その結果、上行性の感染を引き起こし、化膿性腎炎に至り予後不良となる症例がみられる。又、尿道の感染により、粘膜肥厚が進行し、結石あるいは炎症産物が再度閉塞を引き起こす症例も少なくない。そこで我々は術後、通常と同じように陰茎先端から排尿させるべく、閉塞箇所の尿道結石を直接除去し、その切開箇所を縫合し、陰茎を温存させる術式を検討したので報告する。

2.術式:①陰嚢基部から肛門に向かって15~20cm皮膚を切開。②結合織を剥離し尿道にアプローチ。③S字状屈曲から尿道の波動感・緊張感・腫脹を確認しながら、閉塞箇所を探索。④閉塞箇所を創口外に牽引。⑤尖刃にて閉塞箇所を切開。⑥結石の除去。⑦切開部より膀胱に向かってカテーテルを挿入、排尿を試みる。⑧挿入したカテーテルの端を陰茎先端の包皮側に推送し、先端を露出させる。⑨尿道、次に創口を縫合し術式完了。

3.まとめ:閉塞からの経過が長く膀胱麻痺を併発し自力排尿が困難な症例に対しては、術時の膀胱へのカテーテルの挿入は必須である。尿道背側憩室の存在の為、専用カテーテルの開発、手技の確立が待たれるが、尿閉の経過が長くない限り挿入は容易である。この術式の適応により、術後の感染の危険性が除去され、診療費が低減されると思われた。平成22年度は12~22ヶ月齢の7症例に対しこの術式を適応したが、発熱が持続し腎炎に至り予後不良となったものは皆無で通常出荷された。家畜市場に上場される和牛子牛についても、市場評価の低下を防ぐことができると思われる。また、術後通常排尿されるため尿で飼槽が汚染されることもなく、管理上利点も挙げられる。尿道内に砂粒状に結石が充満し、尿閉を起こしている症例には、結石の除去が困難であるため、この術式の適応ではない。

 

尿道結石による尿閉に対する陰茎温存手術の検討

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