ナヌッ!何故立たない!?。落ち着いて考えてみよう。遅発性乳熱編。

 10月のとある夕方、メイプル牧場で診療していると、スタッフが

   「牛がパーラーで立ちません!。」  と言いに来ました。パーラーは産褥期牛群(産んで間も無く、初乳であるため出荷できない牛たち)や診療牛群(抗生物質投与され合乳できない牛)を搾乳するヘリンボーン(魚の骨の形をしているので)ミルキングパーラーです。ここで牛に座り込んでもらう大変困ります。何故なら、ホイルローダーのような重機が入る出入り口ないため、人力で対応しなければならず、600kg以上もある乳牛を動かすなんて、とても無理。

   スタッフに頼み、この牛の産歴を調べてもらうと、土曜日のA.M.0:00に4産目を分娩していました。

 で、今日は月曜日でもう夕方です。分娩後65時間が経過しています。

   「乳熱っ?。………!?」  発熱もなく、皮温は低く、乳房炎の反応もなく、膣粘膜等の紫斑もなく、眼つきも悪くなく、第一胃は硬く蠕動もなく、便は水分の少ない硬いものだったので、敗血症とも思えず、疑心暗鬼でしたが、Ca補液を行いました。  ゆっくり輸液した後、牛をちょっと脅かすとおもむろに起立しました。  ホッと、一安心です。  その日の搾乳はやめておきます。  診療所に帰り、血液検査をすると、Caは3.6mg/mlでIPは1.7でした。

 正直、自分は36時間以上経過した乳熱には遭遇した経験がなかったですが、産業動物臨床家の入門書である『牛の臨床』には分娩後3日での乳熱の発生は発症牛の内、2.8%と記してありました。確率は低いですが、ゼロではないのです。  この牛は2産後の空胎期間が長く、つまり中々種が付かず、逆に3産後は空胎期間がとても短かったそうです。こういう産歴や、季節等の諸条件が重なり、発症したものと思われます。

   乳熱は、様々なサプリメントが市販され、予防方法も考えられていますが、未だ完璧な駆逐の難しい疾病です。  無論、メイプル牧場もCaの充足や、DCADといった飼養管理は完璧で、分娩牛に対するCaサプリメントのかなり贅沢な投与プログラムも行っています。

   牛群全体の産次数も高くなり、これから寒くなり、発生の多い季節を迎えることとなります。

▲ページの先頭へ