乳牛の分娩後の乳成分変化とそれに基づいた子牛哺育プログラムの検討

 平成26年度、島根県獣医学会にて、

「乳牛の分娩後の乳成分変化とそれに基づいた子牛哺育プログラムの検討」と題し、発表してきました。

松永牧場には、年間2000頭以上のスモール子牛が導入されます。

導入先の管理方法は様々で、導入子牛の体型、採食行動、性格等も多様です。

中には、導入後、第四胃疾患を発症する個体もみられます。

今回の発表では、第四胃疾患の発生を抑え、且つ、肉牛として最大限に増体を上げる哺乳方法として、試験を行いました。

強化哺育のような、ミルクの量的な増量は行わず、濃度の調整により栄養充足率を上げる哺乳方法を行いました。

増体性の向上、下痢治療回数の減少がみられ、有効な哺育方法であると考えられました。

 

以下、抄録、発表ファイルです。

 

乳牛の分娩後の乳成分変化とそれに基づいた子牛哺育プログラムの検討

○嶋田浩紀1)、原知也1)、長崎雄太1)、下永満展1)、足立全1)、岸本昌也1)、加藤大介1)、西口雅恵2)、中島孝信2)

発表者所属:1)(株)益田大動物診療所  2)日清丸紅飼料株式会社

 

1.はじめに:哺育期は免疫能の発達、消化機能の成長にとって重要な時期である。哺乳方法、離乳時期等の哺育技術は農場により様々であり、その後の発育、生産性、疾病発生等に影響する。近年、高蛋白低脂肪代用乳を増給する“強化”哺育体系が広く普及している。今回、我々は乳牛の分娩後の乳成分を調査し、子牛への給与乳を母牛の乳成分と同様の栄養濃度に調整した哺育方法を行い、良好な成績が得られたのでその概要を報告する。

2.材料・方法:(1)分娩後10日以内の個体乳(243頭)の乳成分検査を行い、分娩後乳成分の推移を調査した。(2)一酪農牧場の交雑種子牛を用い、哺乳方法の違い(対照区、試験区①、②)による、増体、下痢発生状況を比較した。対照区(17頭):生乳を出生後から漸増給与した(最大給与量3L/日)。試験区①(64頭):出生から3日齢まで初乳2L×2回給与し、4日齢以降、生乳の給与量を一旦減らし、その後漸増した(最大給与量3L/日)。試験区②(37頭):試験区①と同様の哺乳量とし、30日齢まで常時生乳に代用乳を10%添加した。全ての区について、子牛出荷時の日齢、体重を測定し、体重/日齢を増体指標とした。また、下痢発生率、下痢発症牛の平均治療回数を比較した。(3)試験区②で使用した、代用乳を10%添加した給与乳の浸透圧を測定し、常乳の浸透圧と比較した。

3.結果:(1)分娩後、初乳の乳蛋白率は13%と著しく高く、分娩5日後には5%まで低下する。乳脂肪は、分娩後10日間は常に高く、乳脂肪率5~7%を維持していた。(2)試験区②では、体重、体重/日齢は増加し、平均治療回数は有意に減少した。(3)浸透圧は常乳の283mOsm/Lと比較し、代用乳添加により、523mOsm/Lと著しく上昇した。

4.考察:初乳は免疫グロブリン、白血球を多量に含み、子牛の免疫力を強化している。その為、分娩後5日間は乳蛋白率が高い。分娩後10日間、乳脂肪含量は常に高く、乳糖含量は次第に増加し、これらは子牛のエネルギー源となる。試験区②では、初乳を用い高蛋白乳を与えた後、代用乳添加により高脂肪乳を給与し、母牛の乳成分変化に同調する様、給与乳の栄養成分を補正した。栄養濃度を濃く調整することで、給与量を増やすことなく、子牛の栄養充足率を上げる事が出来る。濃度調整による哺育方法は、子牛の発育、疾病予防に有効であると考えられる。

乳牛の分娩後の乳成分変化とそれに基づいた子牛哺育プログラムの検討

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