牛の消化器感染症に対する乳酸菌製剤の効果

 8月2日、島根県獣医学会が開催されました。

『牛の消化器感染症に対する乳酸菌製剤の効果』と題し発表してきました。

乳酸菌製剤は、主に疾病予防や生産性向上を目的に使用されていますが、

今回の発表では、乳酸菌製剤の効果を再検証する目的でビオスリーエース(東亜薬品工業株式会社)を使用し、

4つの試験を行いました。

壊死性腸炎、子牛の下痢症予防、または治療においても有益な結果が得られました。

 

抄録と発表ファイル、乳酸菌製剤の利用例です。

 

牛の消化器感染症に対する乳酸菌製剤の効果

○下永満展、長﨑雄太、嶋田浩紀、足立全、岸本昌也、加藤大介

発表者所属:(株)益田大動物診療所

1. はじめに:消化器感染症は肉用牛の疾病割合の多くを占める。その中でも哺乳期における下痢、肥育期におけるClostridium perfringensによる壊死性腸炎は特に大きな問題となっている。そこで今回、乳酸菌を主成分とするビオスリーAを子牛および肥育牛に投与し、治療効果、予防効果について検証したので報告する。

2. 材料および方法:試験①ビオスリーAを0.28%配合したTMRを肥育牛に給与し、その糞便を採取する。採取した糞便中から、ビオスリーAに含まれるStreptcoccus faecalis T-110(乳酸菌)、Clostridium butyricum TO-A(酪酸菌)、Bacillus mesentericus TO-A(糖化菌)を調べ、ビオスリーAの腸管内への移行性を確認した。試験②下痢症状を示す子牛にビオスリーAを投与し、便性状、総菌数と大腸菌数の変化を調べた。試験③ビオスリーA投与農場と非投与農場の肥育牛の糞便を採取し、糞便中のClostridium perfringensの保有状況を調べた。試験④肥育農場において、2003年~2010年の壊死性腸炎の発生率を調査し、ビオスリーAの飼料添加による壊死性腸炎の予防効果を検証した。

3. 結果:試験①ビオスリーAに含まれる各菌株が糞便中に検出され、腸管内へ有意に移行していることが確認された。試験②下痢症状を示す子牛は正常便の子牛と比較し、総菌数及び大腸菌数は増加し、またClostridium perfringensの検出も認められた。下痢症状を示す子牛は、ビオスリーA投与により便性状が改善され、総菌数と大腸菌数はともに減少した。試験③ビオスリーA非投与農場よりも投与農場の方がClostridium perfringensの保有率及び保菌数は少なかった。試験④ビオスリーA飼料添加により壊死性腸炎の発生率は年々減少した。

4. 考察:ビオスリーAは腸管内への移行に優れ、腸内細菌叢のバランスを整え、消化器感染症を抑制していることが示唆された。さらにClostridium perfringensによる壊死性腸炎に対しても同様の機序で有用な予防効果を示すことが示唆された。消化管内の細菌叢を改善し、宿主に有益な作用をもたらす乳酸菌製剤は、抗生剤の畜産食品への残留や、耐性菌出現などの問題はなく、動物体への安全性が高いという利点があるため、これからの獣医療にとって治療、予防を担う重要な存在であると考えられる。

牛の消化器感染症に対する 乳酸菌製剤の効果

 

 

 

 

乳酸菌製剤の利用例

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